老いではなく、文化的つーか…

photo「いやあー長いことこの季節ここから離れていたので気がつかなっかったけれど、こんなに緑に囲まれているんだ。きれいなんだねえ」とここの住人が台風で閉じ込められた薪小屋から外の様子を見ながらつぶやいた。彼は毎年初夏になると南半球へ仕事に出かけていく生活を続けていたので、実は年間を冬と春ばかりでこの32年間を過ごしていた。
「忘れていたろう、この季節。この国は平らな平原が続く環境ではなくて、実は山が海に飛び出しているだけで、その地形が生み出した川が生命線となり河口に広がった平野や火山の噴火で出来た僅かな平地に人が集まって住んでいる。水と火の国なんだよね。雨も大事なんだよ。この豊かな水を使ってここまで生き延びて来たんじゃねえ。龍神様よ。忘れていたろう、この季節のこと。この雨がいろんなこと生み出したり、ぶっ壊したりするんでねえの」 などと先輩ずらして僕は語ってみたのだった。

“ぽとりっ..”と雨漏りした水が地面に滲みを作った。また”ぽとりっ..” 土間にしみ込んでいった。この小屋の主は雨景色に生える緑にまだまだ感動しているようで外を眺め続けている。
暫くするとこの”ぽとりっ..”が地面を浸蝕し始めた。一滴の雨水が土間の大地に変化を起こすがごとく、小さなくぼみを創り始めている。天地創造か。
台風の中何か作業をはじめる訳でもなく、小屋の外の風雨の音に包まれてゆっくりとした時間だけが 流れた。主は突然なにやら面白いことに気がついたようにポリバケツをこの”ぽつりっ..”地点に置いた。何とも情けない音が発生した。台所に置いてあるプラスチックの桶に蛇口から落ちた水滴の最初の音と同じだ。それのでかい音だ。”ぽとりっ..ぽとりっ..”30分もすると”ぽしゃりっ..”と変わる。そして水面が出来始めると”pot!”に変わり始めた。そしてこの”pot!”が外の風雨の音にリズムを刻み始めた。雨が酷くなり始めるとその間隔はいい感じに詰まって「ロック刻んでいるねえ!」と二人で感動していたのだった。酒も喰らわずこんなロマンチックな時間を過ごせるのも、年を重ねたせいなのか。このバケツに雨水がフルに至るまでには6時間と24分の時間を要したのだった。

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